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 近江の大型建物 まとめ

「全国の概観」から近江の大型建物の特質が分かり、この章のデータから、近江と言っても野洲川下流域の伊勢遺跡と下之郷遺跡が建物の種類・棟数で突出していることが分かります。
もうすこし整理しながらまとめてみます。
近江の建物の位置づけ

弥生時代前期〜中期前半

独立棟持柱建物は、弥生中期前半に大阪府・奈良件に出現しています。 大型建物は福岡県で弥生前期に出現し、中期前半には超大型のものが複数の拠点集落に建てられます。 近江には大型の建物は見当たりません。建物からの観点では、ごく普通な地域でした。

弥生時代中期後半

大型建物が存在する遺跡の地図と棟数のグラフを「全国の概観」に示していますが、府県別の総面積を 示す地図で近江がどのように見えるか示します。
独立棟持柱建物 弥生中期後半の独立棟持柱建物分布 大型・特殊建物 弥生中期後半の大型・特殊建物分布
弥生中期後半の府県別建物規模の分布(作成:田口一宏)
独立棟持柱建物
滋賀県(下之郷遺跡)に独立棟持柱建物が現れますが、規模・棟数共にまだ、マイナーな状況です。
大阪府、兵庫県、三重県に大型の独立棟持柱建物が建てられ、小型のものが全国各地に建てられるようになります。
大型・特殊建物
福岡県の大型建物が突出していますが、滋賀県が規模・棟数共に福岡県に次ぐ位置にあり、僅差で大阪府が続きます。具体的な遺跡名で言うと、福岡県は多くの遺跡がありますが、滋賀県は下之郷遺跡、大阪府は池上曾根遺跡になります。
この時代、西の北九州と東の近畿が大いに栄えていたことを示しています。

弥生時代後期

独立棟持柱建物 弥生後期の独立棟持柱建物分布 大型・特殊建物 弥生後期の大型・特殊建物分布
弥生後期の府県別建物規模の分布(作成:田口一宏)
独立棟持柱建物
近畿地方にあった大型の独立棟持柱建物はなくなり、全国で近江のみ、すなわち伊勢遺跡・下鈎遺跡となります。ただ、小型の独立棟持柱建物は各地でも存続していました。
弥生中期の近畿とその周辺の大型拠点集落はなくなり小さな集落に分散していました。
北九州を除くと、大きな建物のある遺跡は近江だけと言っていいでしょう。
大型・特殊建物
弥生中期に続き北九州には大型建物のある拠点集落がいくつもありました。
九州以外では、近江(伊勢遺跡)に大型・特殊建物が多く見られました。
この時代、西の北九州と東の近江が大いに栄えていたことを示しています。
近江での大型建物

独立棟持柱建物

「全国の概観」で、独立棟持柱建物の大きさと棟数の2つの尺度で見れば、近江が他を圧倒していいることが数値的に明らかです。さらに「近江の大型建物」から見てみると、その評価点の値は伊勢遺跡に依存しています。
独立棟持柱建物に関する限り、伊勢遺跡は全国で群を抜いています。
後ほど、伊勢遺跡の建物配置について述べますが、方形と円形の建物配置を考えると先進性・計画性は他では見られない凄いことです。
池上曾根遺跡の超大型独立棟持柱建物は圧倒的です。でもそれ単独です。現在の都市建物に例えると、東京なら、池上曾根遺跡はスカイツリーで伊勢遺跡は東京駅前の高層ビル群にあたります。
大阪なら、阿倍野のハルカスと大阪駅前の高層ビル群にあたるでしょうか。
これまで、「建物」というハード面での検討をしていますが、建設計画、おそらく祭祀センターとしての運用、他地域への影響力などのソフト面を思いめぐらすと、単に近江だけの大きな祭祀センターではなく、近畿・東海圏の祭祀センターであった可能性があります。恐らく銅鐸からみでしょう。

大型・特殊建物

伊勢遺跡の独立棟持柱建物は目立つのでよく知られていますが、下之郷遺跡には梁間一間の大型建物が数多く並んでおり、全国的にみてもユニークな遺跡です。
「全国の概観」の「大型建物」全体で見ると、北九州の超大型建物に比べて、近江の大型建物はとても「大きさ×棟数」でかないませんが、北九州を除くと全国で第2位となります。
さらに「近江の大型建物」から見てみると、その数値は下之郷遺跡と伊勢遺跡に依存していますが、下之郷遺跡への依存度が大きくなっています。
北九州は超大型建物を有する遺跡がたくさんあって、トータル量として群を抜いています。
しかし、一つの遺跡を見ると、超大型建物が何棟も立ち並んでいるわけではありません。
その点、下之郷遺跡では、今回、特別な建物としてリストアップしたもの以外にも40uクラスの梁間一間の大型建物がたくさんあり、それらが整然と並んでいます。
後ほど、下之郷遺跡の建物群と配置について述べますが、西日本の拠点集落でしか見られないと言われている円形壁立建物が大小取り交ぜ数多く存在していました。
サイズの規格性、配列の規則性など建物のハード面だけではなく、3重の環濠や出土品から考えあわせると、弥生中期の地方拠点集落だけではなく、近江を代表し広く近畿・中国・東海圏に影響を及ぼす遺跡であったと推測できます。
伊勢遺跡の建物は、独立棟持柱建物以外の大型建物も全国的に見ても素晴らしいものです。
これは、詳しくは後述しますが、方形区画内に大型総柱建物、楼観、大型平地式建物などセットで見つかっているからです。区画内にこのような建物がセットで見つかるのは他では、吉野ケ里遺跡だけでしょう。

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